皮膚・形成外科
下肢静脈瘤の最新治療=血管内治療
皮膚形成外科では、下肢静脈瘤の治療を行っています。
正常な下肢静脈のはたらきを概説し、下肢静脈瘤が起こる原因について説明します。
さらに現時点で、最も楽に、早く、確実に、そしてきれいに下肢静脈瘤を治す治療と考えられている、血管内治療について解説します。
- 下肢静脈瘤の疫学
- 下肢静脈瘤は年齢とともに有病率が上がり、15歳以上の632人の調査では43%に静脈瘤が見られたと報告されています。
下肢静脈瘤の危険因子
- 性別(女性に多い)
- 年齢(高齢者の方に多い)
- 遺伝(家族内発症が多い)
- 妊娠・出産後に発症することが多い
- 立ち仕事をする職業に多い(調理師、美容師、店員さんなど)
- 下肢静脈のはたらき(静脈弁と第二の心臓)
下肢静脈の血液が、重力に逆らって心臓まで戻るメカニズムを復習しましょう。2つのキーワードが重要です。
- @静脈弁〜逆流防止弁
- A下腿筋(ヒラメ筋) 〜筋内に深部静脈の袋がある
- ヒラメ筋の中には、深部静脈の袋がたくさんあります。ヒラメ筋が収縮すると、筋内の深部静脈は押し潰されます。静脈弁があるために深部静脈血は上方に押し上げられます。いっぽう、ヒラメ筋が緩むと、表在静脈内の静脈血が深部静脈内に流れ込みヒラメ筋内の深部静脈の袋を満たします。
この共同作業を繰り返し、静脈血は少しずつ頭側の心臓に戻ります。この巧妙なメカニズムのために、下腿の筋肉を“第二の心臓”と呼ぶこともあります。
- 下肢静脈瘤の原因と症状
では、下肢静脈瘤はどうしておこるのでしょうか?
下肢静脈瘤は、じつは静脈弁の機能不全によって起こるのです。
- 一般的に下肢静脈瘤自体が悪者と思われていますが、実はそれよりずっと頭側にある深部静脈と表在静脈との交通部にある静脈弁が壊れることにより、下腿筋のポンプ機能によってせっかく汲み上げられた静脈血が下方に逆流することが原因です。その結果として下腿部に古い静脈血が滞ってしまいます。薄い皮下静脈に古い静脈血が高い圧で溜まり続けると、血管は太くなり(静脈瘤)周囲に水分が漏れ出し(むくみやおもだるさ)、さらに栄養状態が悪くなることで、皮膚炎をおこしたり皮膚に穴が開いたりします。
つまり、見えない深部の静脈弁不全が原因で、太くなった静脈瘤は、その結果であるといえます。
逆流の根源となる部位は大腿基部や膝窩部が多いです。
下肢静脈瘤では、右のような症状がでてきます。症状は徐々に進行します。
以下に、下肢静脈瘤に特徴的な症状と、他の疾患が原因であることが多い症状を列記します。
- 下肢静脈瘤の治療法
下肢静脈瘤の治療は、歴史が深く種々の治療法があります。以下のような治療法が一般的です。
1.圧迫療法
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- 弾性ストッキングで脚を圧迫しつつ歩くことで、下腿から血液を押しあげて、静脈のうっ滞を軽減させる治療法です。
- 夜間は下腿を心臓より高く上げることが重要です。ストッキングを履く必要はありません。朝にむくみがなくなっていればOKです。
2.部分ストリッピング手術= 現在のスタンダード
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- 小さな皮膚切開をおいて、弁不全を来たした逆流の根源部を抜き取る手術です。
- 麻酔はブロック麻酔と局所麻酔で行います。再発率が低く治療成績も安定しています。
- 皮膚切開も、1cm前後の小切開を2〜3か所程度でできます。
3.血管内治療(RFA)
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- 新たなスタンダードとなりつつある最新治療法です。
- 超音波ガイド下に膝周囲に細い針を静脈に刺して、下肢基部に向かって静脈の中にカテーテルをいれ、足のつけ根は切りません。
- ふくらはぎの皮下の静脈瘤は、Stab avulsion法で(後述)取り除きます。
- この一連の治療は、現時点では最も楽に、早く、確実に、そしてきれいに下肢静脈瘤を治す治療と考えられています。
4.硬化療法(硬化剤を静脈内に注入して、閉塞させる治療です)
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- 手術ではないので、傷跡は残りません。太い静脈瘤には適応がありません。
- 再発・色素沈着・アレルギーや深部静脈血栓のリスクがありますが、安全で補助療法として行います。
- 身体的負担が少ない、新しい治療法=血管内治療法(血管内焼灼術)
- 血管内治療法は、より侵襲の少ない新しい下肢静脈瘤の治療法として開発されました。血管内治療とは、カテーテルを病変の静脈内に挿入し、レーザーや高周波による熱により血管内から静脈を閉塞させる治療です。
本邦では、2011年に血管内レーザー焼灼術(ELVA)が、2014年6月に高周波焼灼術(RFA)が、保険認可されました。日本では、血管内治療は保険適応されたばかりですが、海外ではこれらの治療はスタンダードになりつつあります。
この治療法では、原則はカテーテルを挿入するだけで治療ができるため、針の刺し傷のみで治療ができます。
*RFAとは、radiofreqency ablation:ラジオ波による血管内焼灼術 の略です。
- 血管内治療法の実際
これらの最新治療には、下肢静脈瘤に対する血管内焼灼術の実施基準による、実施施設認定と、実施医認定が必要であり、当院もその認定を取得しております。
当院で採用しているのは、COVIDIEN社の、療器である、 ClosureRFGジェネレーターと、ClosureFast カテーテル です。
標準的な治療手順は以下の通りです。
- @術前に入念な超音波検査によるマーキングを行います。
- A伝達麻酔、局所麻酔を行います。
- B超音波ガイド下に、カテーテルを挿入します。
(カテーテルが入らない場合はストリッピング手術に切り替える場合もあります。) - C対象血管を120℃で焼灼します。焼灼時間はコンピュータにより管理されており非常に安全です。
- Dカテーテルを抜去します。
- E適宜、下腿部の皮下静脈瘤の切除を追加します。
- 当院での下肢静脈瘤の治療の実際
当院での診療の経過をまとめますと、以下のようになります
病歴と前述の症状をもとに、まずは下肢全体を診察します。下肢静脈瘤が疑われれば、超音波検査をします。
【超音波検査】
- 表在静脈の逆流が原因である場合は、下肢静脈瘤の手術適応となります。
深部静脈の異常が原因である場合は、手術の適応にならない場合があります。
下肢静脈瘤のもととなる逆流部位は人それぞれ異なり、また複数あることもあります。
【手術適応の選択】
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手術の適応がある場合、2種類の手術を組み合わせることになります。
1.深部静脈との交通がある逆流の根源部をなくす手術
2.静脈の逆流により発症した、皮下の静脈瘤をなくす手術大伏在静脈の場合(TとUを併用) T.根源部の治療 U.下腿の皮下静脈瘤の治療 @血管内治療(RFA)
あるいは
A部分ストリッピングC静脈瘤切除
(stab avulsion法)下腿の小伏在静脈の場合 下腿の皮下静脈瘤の治療 B高位結紮術あるいは@血管内治療(RFA)
当院では、下肢静脈瘤に対する血管内治療のガイドラインに準じて使い分けています。
- @血管内焼灼術(RFA)
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- 治療静脈の径が5〜10mmで蛇行が少ない場合
- 抗凝固療法が中止できない場合
- ガイドラインで、適応可能と判断される場合
- Aストリッピング(静脈抜去)手術
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- すべての一次性伏在型下肢静脈瘤の適応
- 上記の血管内治療が適応が困難な場合
- B高位結紮術
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- 小伏在静脈の場合
- 年齢などの問題で侵襲の低い手術を希望される場合
- C静脈瘤切除(stab avulsion法)
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- 1〜2mmの切開で、皮膚に浮き出ている浅い静脈瘤を引き出して切除する方法です。
- 上記治療と合わせて行います。
【麻酔について】
- 大伏在静脈の場合
- 当院では下肢全体にしっかりと麻酔を効かせるため大腿神経ブロックを併用します。安全を期するためと、皮下血腫などの合併症を減らすため、当日1泊入院で行っています。
- 小伏在静脈の場合
- 局所麻酔のみで行えるため、原則日帰り手術です。
【当日一泊入院】
- 大伏在静脈の場合
- 朝入院 ⇒ 午前に手術 ⇒ 翌日超音波検査で血管状態を確認後に退院です。
- よくある質問
- すべての下肢静脈瘤は手術しなければいけませんか?
- 下肢静脈瘤は良性であり、原則は急いで治療する必要はありません。 進行程度は超音波検査と自覚症状で判断します。症状が進んで、つらくなったら(ご希望あれば)手術しましょうと説明しています。
- レーザー治療とは違うのですか?
- 血管内治療法とは、病変静脈を血管内から焼灼する治療法の総称です。その熱源がレーザーか高周波かという、方法による違いだけで同じものと考えてよいです。
- 保険は適応できますか?
- 高周波による血管内治療は最も新しく2014年6月より保険適応となりました。
- 術後の安静度について教えてください?
- 当院では、当日より、トイレ歩行など日常生活程度の活動が可能です。
以下のような安静度を設定しています。目安となさってください。
手術〜術後2日目 | 術後2日目シャワー後〜5日目 | 6日目入浴後〜6週間 |
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生活内容 | 開始時期 |
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家事労働を含む日常生活 | 手術当日から |
車の運転・事務系の仕事 | 手術翌日から |
シャワー | 手術2日後から |
肉体労働・立ち仕事・自転車に乗る・正座 | 手術3日後から |
入浴 | 手術6日後から |
温泉・プール | 手術10〜14日後から |
旅行・スポーツ・ジム | 手術14日後から |
長時間の正座・サウナ・加圧トレーニング | 手術1か月後から |
- 痛みはありますか?
- 伝達麻酔・局所麻酔を行います。麻酔の注射は少し痛いです。 術後の痛みは少なく、当日より歩行可能です。
- 入院は必要ですか?
- 当院では安全のために、以下のような一泊入院をお願いしています。
当日朝入院⇒午前に手術⇒翌日超音波検査で血管状態を確認後に退院
下肢静脈瘤のある方、脚が重だるくて困っている方、当院皮膚形成外科にお気軽にご相談ください。